ペットとのすこやかな生活と幸せな PetLife

「老犬老猫ホーム」を知って、
自分の子に合った介護を選ぼう

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ペットも高齢化が進むと同時に、人間同様、介護が必要になることも少なくありません。ですが、仕事を持っていたり、飼い主さん自身が病気になったりすると、両立が難しくなります。「東京ペットホーム」では、介護が必要なペットの一時預かりや、老犬老猫ホームの入居を通して、愛するペットと最後まで家族でいられる環境を提供しています。今、新たな選択肢として注目を浴びている「老犬老猫ホーム」とはどのような所なのでしょうか。また、どのように選べばいいのでしょうか。代表の渡部帝さんと、ドッグホーム店長の手柴友里さんにお話を伺いました。

Q1.老犬老猫ホームを作ろうと思ったきっかけは何ですか?

【渡部】当ホームは2014年の5月に開設したのですが、それまでは全国に10カ所ほどしか老犬ホームがなく、大半が山の中にある郊外型でした。預かり方もまちまちで、保護シェルターを開設しているNPO団体が、個人から寄付という名目で飼育費用を受け取り、「譲渡」という形で引き取っている所が大半でした。

確かに余生をそこで過ごすのだから老犬老猫ホームなのでしょうが、僕がもし飼い主だったら、人間でいう老人ホームのように、いつでも預けることができて、頼めば元の家に帰ることもできる。暮らす場所は変わっても家族でいられる所に預けたいと思い、そういう施設が必要だと感じたからです。それまで動物業に関わったことがなかったので、完全営利型の老犬ホームを作るのは大変でしたが、人間の老人ホームを参考に勉強しました。

Q2.預けに来られる方はどのような事情が多いのでしょうか。

【渡部】ワンちゃんとネコちゃんで全く事情が違います。ネコちゃんの場合は、ほとんどが飼い主さんの事情です。一番多いのは、飼い主さんご本人が老人ホームに入所されるケース、二番目に多いのが、飼い主さんが他界されてペットが取り残されてしまったケース、三番目が、飼い主さんが病気で長期入院を余儀なくされるケースです。

ワンちゃんの場合は、ネコちゃん同様、飼い主さん側の事情もありますが、半数は、介護が必要で仕事との両立が難しくなった場合です。

Q3.老犬老猫ホームが、飼い主さんの責任放棄につながらないでしょうか。

【渡部】皆さん、断腸の思いでいらっしゃって、中には泣きながら相談に来られる方もいます。どの方の理由も不可抗力に思えますし、自分に置き換えても飼い続けるのは無理だろうなと感じます。

例えば、寝たきりのワンちゃんのために介護離職ができるのか?認知症で夜泣きをするワンちゃんに近所から苦情がきたら、持ち家を手放すことができるのか?無理ですよね。人間の老人ホームだって、昔は「姥捨(うばすて)山」と言われていましたが、今では欠かせないインフラになっています。

ワンちゃんやネコちゃんも、高齢者や単身者、核家族で飼われているケースが大半です。80〜90%は飼い主さんが看取ることができますが、自分が病気になったり、ワンちゃんの重い介護が何年も続いたりすると、やはり、受け皿がないといけないと思っています。

Q4.自分たちの年齢を考えてペットの飼育を諦めていた人も多いと思います。

【渡部】僕個人の意見ですが、お年寄りこそペットを飼うべきだと思います。1人で家の中にいるよりも、ワンちゃんやネコちゃんの世話をするだけで生き甲斐になるはずです。ただ「動物飼育」という観点からすると、定年過ぎてから飼い始めるのは考えたほうがいいというのも理解できます。

今の動物保護団体も、60歳以上の人には譲らないとしている所が多いですが、僕はこういった線引きも少し不公平に感じます。もし、自分たちに何かあっても、飼育を託せる人がいるなら全く問題はないはずだからです。特にシニア世代が、保護猫や保護犬を飼ってくれるなら、保護シェルターの問題も飼い主さんの飼いたいという欲求も、両方解決してくれるはずです。

【手柴】ワンちゃんがいれば散歩に行かなきゃならないと外へ出るようになるでしょうし、シニアの方にとっては、それが自分の健康にもつながると思います。

Q5.どのような預かりをするのかを最初に飼い主さんと相談するのですか?

【渡部】これも老犬ホームにより異なります。「うちはこういうしつけをしています」「1日のルーティーンはこうです」「ご飯はこういうものを食べさせています」と、ホームのやり方で預かる所もあるのですが、うちの場合は、飼い主さんと離れて暮らしていても、ここが第二の自分の家だと感じてもらえるよう、可能な限り自宅にいたときの生活を再現しています。

例えば、飼い主さんの中には、ワンちゃんの洋服が何十着とあり、何月にはこの服というように、着せる服を決めている飼い主さんもいます。これらを入居時に全て記録し、入居後も同じように服を着せ替えてあげています。

お散歩も、うちは一匹ずつ行います。その子によって歩くのが遅かったり、まだ眠っていたいという子もいたりと一匹ずつ違うので、それぞれに合わせた形でお散歩を行うからです。

Q6.もし、医療が必要になったときはどうするのでしょうか。

【手柴】お世話になっている動物病院が近隣にあるので、必要な場合は飼い主さんに連絡をして受診させています。連絡がつかなくて緊急を要する場合は前後することもありますが、必ず一声掛けています。

「老犬老猫ホーム」を知って、自分の子に合った介護を選ぼうの記事画像

Q7.ワンちゃん達の情報共有はどのようにされているのですか?

【手柴】1匹ずつに、1日1枚、何時に何をしたかということを書き込む「お世話シート」があります。例えば「朝8時にご飯をあげた」「完食した」「半分くらい残した」とか、トイレや散歩の時間、体調が悪いときも「何時に嘔吐をした」「下痢をした」など、全てを書き込み、スタッフが入れ替わる際に全員がチェックして引き継ぎます。

高齢のワンちゃんは日々体調が変わり情報が更新されていくので、毎日しっかりと把握するようにしています。

Q8.老犬老猫ホーム選びで重要なことは何でしょうか。

【渡部】現在、老犬ホームは全国で100箇所以上あるので、ワンちゃんネコちゃんが元気なうちから、複数見学して候補をいくつか絞っておくのがよいと思います。中には、アクセスや費用、施設のスペックだけで選ぶ飼い主さんもいるのですが、一番重要なのは、そのホームの空気感だと思います。

僕が飼い主だったら、まず、暮らしている犬の表情を見ます。何年も暮らしている子が、自宅のリビングにいるようにくつろいで寝ていたら候補になるのではないでしょうか。

次に必要なことは、お世話をするスタッフとフィーリングが合うかです。入所させたら、自分の代わりにお世話をしてくれることになるので、こうしてほしいという要望が言えないのは嫌ですから。

また、当ホームだと1匹ずつの個性やペースを尊重した介護を行うため、10人程度のスタッフでお世話できるのは、犬20匹、猫20匹が限界です。現在何匹入居しているのか、スタッフは何人いるのかも確認しておくことが大事だと思います。

中には、極端に少ないスタッフ数で100匹以上のワンちゃんの面倒見ている所もあります。これでは当然、1匹ずつに合った介護はできませんし、自分の子もその他大勢の扱いになってしまいます。一番こだわらないといけないのは、その子のQOL(生活の質)です。老犬ホームはただ生きていればいいという場所ではないのです。

【手柴】やはり、自分の子に合った生活ペースでお世話をしてくれる所に預けたいと思うので、人間のペースにワンちゃんを合わせるのではなく、ワンちゃんのペースに人間を合わせてくれる所を選んで欲しいと思います。例えば、環境の変化に慣れにくい子だったら、その子のペースに合わせて少しずつ工夫してくれるなど、細かい気配りをしてくれる所を選んで欲しいですね。

Q9.渡部さんは老犬ホーム協会の副会長もされているそうですね。

【渡部】老犬ホームという業界は、数値規制もなく、預かったら返しませんでも看板を掲げられます。でもこうした老犬ホームが、100匹、200匹預かって劣悪な環境で多頭崩壊を起こしたら、世の中が「老犬ホームってだめだね」と思ってしまいます。

そうならないよう、有志の老犬老猫ホームと組んで、こうあるべきだというガイドラインを作成していこうというのが老犬ホーム協会の意義です。少しずつですが基準ができつつあり、2018年からは、法改正のアプローチも環境省動物愛護管理室に行っています。

最後に:読者に向けてメッセージをお願いします。

【渡部】これまで、飼えなくなったペットは、里親に出すか保健所という手段でしかなかったのですが、第三の選択肢として老犬老猫ホームがあります。自分の子に合ったお世話をしてくれる所か、自分の考えに合うホームかを見極めて、ぜひ、有効に活用していただきたいと思います。

きずな・ふれあい, きずな・ふれあい

渡部 帝 (わたなべ あきら)

老犬・老猫ホーム 東京ペットホーム代表

神奈川県出身。元工務店経営者。
東日本大震災の被災ペット問題に触れ、「飼育困難となった犬猫の終生飼養施設」を作ろうと、2014年、ペット介護士の夫人と「老犬・老猫ホーム 東京ペットホーム」を設立。2018年2月、老犬ホームの基準作りを目的とした「老犬ホーム協会」を設立し副会長を務める。常に「飼い主の心に寄り添う」姿勢を信条とし、年間200件を超す飼育困難相談を受ける。

手柴 友里 (てしば ゆうり)

老犬老猫ホーム 東京ペットホーム ドッグホーム店長

神奈川県出身。動物介護ホーム施設責任者/動物介護士/動物医療技術師/トリマーペットスタイリスト/コンパニオン・ドッグトレーナー
動物看護大学で動物医療を4年間学び、保護施設と老犬ホームで看護の知識を活かしながら6年間介護に携わる。2023年よりドッグホーム店長に就任。介護だけでなくトリマーとしての視点から、1匹1匹に合った動物たちの衛生面のケアやストレスをかけない介護を行う。現在まで約200匹の老犬を介護し、看取りも40匹ほど行なっている。

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